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NPO法人アクションと北原義紀さんのカット教育プロジェクト(ハサミノチカラInterview/後編)

インタビュー

2017.06.19.Mon

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2011年、NPO法人アクションとともに、フィリピンでボランティアカットプロジェクトを始めた北原義紀さん(SORA代表/東京都目黒区)。
「ハサミのチカラ」で「誰かのため」に――。
そんな喜びを感じつつ、もっと違う方法で貢献できないかと模索を始める。
後編では、プロジェクトの主旨を職業訓練に転換した経緯と、その成果や展望を聞く。

 

このまま「与え続け」てよいものか

 

―前回のインタビューでおっしゃっていた“違和感”。当時の心境を教えてください。

 

北原:2回目のツアーのときですね。

このツアーの目的は、貧困地域の子どもたちに成人式をプレゼントするというものでした。

日本では当たり前に成人式をやっていますが、フィリピンでは成人(18歳)をお祝いするのは、富裕層だそうなんです。

そこで、集落の子どもたちや家族を集めて、衣装スタイリスト TASTUOさんに正装をスタイリングしてもらってヘアセットして、門出をお祝いしよう、と。

 

その際、ツアーメンバーは、参加者のお宅にホームステイをしたんですが……

より濃く彼らの生活と関わる中で、彼らにモノやコトを与え続ける行為に疑問を感じ始めたんです。

 

―疑問、と言いますと?

 

北原:ヘアカットや、成人式という経験。

これらを提供して、喜んでくれているし、それがよいことだという信念もありました。

僕ら日本人美容師にとっても、いえ日本の美容業界にとっても価値あることだと。

ですが、現地で生きる彼らは確かに「貧しい」んですけれど、ちゃんと夢があるんです。

「僕はこの村のためにこんなことをやりたい」

「長女だから兄弟たちを養いたい」

といった具合に、子どもながらに自分の担うものと覚悟があるんですよ。

心はまったく「貧しく」ない。

壁すらないような家で、暑いから居間に家族全員が集まって。

赤ちゃんからおじい、おばあまで……そこに年頃の息子が彼女を連れて帰ってきたり。

 

彼らの生活に、文明の利器とか先進国の文化が入っていくことで、何か「失われるもの」があってはならないな、そう思ったんです。

 

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唯一盗まれない財産「技術」を贈ろう

 

―そこで、活動の方向転換を模索するわけですね。

 

北原:決定的に「変わらなきゃ」と思ったのは3回目の渡航のあとですね。

先ほども言ったように、イイことをしているのに間違いはないけれど「やり続ける」意味はないと思い始めました。

“与える”ことは、僕らと彼らの間に“依存”を生んでしまうからです。

毎回たくさんのお金を使って大人数で行くくらいなら、そのお金を寄付してしまおうか?でも、お金は「モノ」になる……。

彼らの夢や担うものを後押しするには「モノ」の支援じゃなく、「ヒト・コト」の応援だと。

 

待てよ? ヒト、コト…… それは美容師にとって1番大事なもの。

「そうだ、あの子たちにヘアカットを教えよう」と。

そこで、アカデミーに活動内容の舵を切り直したんです。

 

―家族や大切な人を養う、支えるための職業の選択肢に美容師が加わる。それも支援のあり方ですね。

 

北原:お金やモノは盗まれるけれど、この世で唯一盗まれないのは“技術”です。

技術職の僕らだからこそできる、イチバンの応援のカタチだと思いました。

 

カット教育も支援も

“続けること”が大切でむずかしい

 

―具体的にどのような準備をなさったのですか?

 

北原:まずは施設のピックアップです。

技術習得は一朝一夕でできるものではありませんから、続けられる環境が整っていることが大切です。

ソーシャルワーカーがいるか、バックアップ体制はどうかなど、さまざまな施設を訪問したりして、環境を整えていきました。

そこから1年ほどで、5日間の合宿形式のアカデミーを実現しました。2013年のことです。

 

―5名の生徒が「卒業生」として技術を習得し切るまでに続けられたのは、さまざまな尽力があってのことですね。

 

北原:カットというのは、継続的に練習しなければ身に付かないじゃないですか。

だからといって、毎月僕らが渡航するわけにもいかない。

そこで、現地で最も尊敬されるヘアデザイナーであるJude Hipolito(ジュード・ヒポリット)氏に協力してもらえたのは、とてもありがたかったです。

 

参加者の中には遠方に引っ越したり、家庭の事情で継続がむずかしくなったりして、結果的に16人中5人が修了、という形になりました。

西戸さんの本(『40日でカットの仕組みがわかる本』西戸裕二(DADA CuBiC)著 髪書房刊)で、課題や自主練習をこなしながら、彼女たちは本当によくがんばりました。

 

―今回の卒業式はそういう意味で1つの節目ですね。5人中3名が来日し、卒業式ではカットやアレンジのプレゼンテーションや答辞の挨拶を述べてくれました。

特に協賛者や支援者にとって、彼女たちが日本に来られて、感謝や決意の言葉や人のしあわせを想う気持ちに触れられたことは、このプロジェクトを「続けたい」と思ういい機会になったのではないでしょうか。

 

北原:クラウドファンディングにご協力いただいた方を始め、たくさんのご理解のおかげでなんとかここまでやってきました。

金銭面だけでなく、たくさんの人に相談に乗ってもらったり……。

4年間のうち一番悩んだのが、フィリピンと日本の間での教育のコネクトの部分だったんですが、先の西戸さんの師である植村さん(故・植村隆博さん DADA CuBiC)にもアイデアをいただくなど励ましてもらったことは、継続の後押しになりました。

たとえば、数あるご自身の書籍の中でも「自学に向いているから」ということで、西戸さんの本を推薦いただいたりとか。

本当にたくさんの知恵や後押しが力になりました。

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カットでつなぐ、バトンを渡す

 

―いろんな人の想いが、続けるチカラになったんですね!

 

北原:今回の来日に関しても、メンバーの小山崎さん(Canvas.代表 小山崎裕士さん)のサロンと僕らのサロンで実習を行ったり、D.D.A.の見学におじゃましたりと、たくさんの人と彼女たちを結びつけることができました。

技術を習得して明日を生きようとする彼女たちに「みんなが応援している」と伝えたかった。

それが、卒業式の答辞の言葉になったと思うんですよ。

「美容師として家族を養い、次は自分が講師として母校でカットを教えたい」と。

 

この経験を通じて、僕らのプロジェクトに限らず、ボランティアは“美談”で終わらせてはいけなくて、次代に「バトンをつなぐ」ということだと感じたんです。

それって、僕ら美容業とまったく一緒じゃないですか。

小手先のことや目先のラクな方向に逃げずに、技術を通して心を伝えて、後輩やスタッフにバトンをつなぐ。

美容師だからできる、美容師にしかできない支援のカタチだと思います。

 

―この支援の輪が美容業界だけじゃなく、これから何かにチャレンジしたい若い世代にも伝わるといいなと思います。

23年前の横田さんのような高校生が、手段の1つとして「美容師」を考えるようになったりとか。

 

北原:そうなんですよね。

繰り返すようですが、バトンをつないでいくことがとても大切だと思うので。

美容業界内外問わず共感してくださる方の後押しがいただければありがたいですし、まだまだ僕たちだからできることを続けていきたいと思います。

 

***

 

「ハサミノチカラ」――髪を切るという美容の王道の1つが、新しい道を見つける光となりそうだ。

 

▶NPO法人 アクション

http://actionman.jp/

▶ハサミノチカラアカデミーのあゆみ

https://www.youtube.com/watch?v=4ugxbO18m3Y

 

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